太陽光発電システムを設置して余剰電力を電力会社に売ったとき、その単価に売電量を掛け合わせた金額が振り込まれるという話は前回しました。実はその「電気そのもの」以外にも、私たちは太陽光発電によって“売れるもの”を得ています。
太陽光発電システムで発電された電力には、クリーンな発電設備でつくられたという付加価値、つまり「環境価値」があります。この「環境価値」の売買が行われているのです。
環境価値――というと、何か漠然として分かりにくいですね。これは本来「グリーンコンシューマー」という考え方からきています。
私たちの暮らしは、多くの資源やエネルギーの消費で成り立っていますが、それらは国内外の各地から運ばれ、「商品」という形で私たちの暮らしに入ってきます。そして私たちは商品を選ぶ際、その商品が持つ様々な価値を勘案しながら、商品選びをします。「価格」も当然価値の1つですが、そのほかにも「耐久性」「デザイン」「性能」「安全性」「使いやすさ」などがあります。このように消費者がどの価値を基準に選ぶかということは、結果的に社会を変えていくほどの影響力があるのです。
環境に配慮したライフスタイルへの転換が重要性を増している現代においては、「環境に配慮している」という価値がとても大切であると考える消費者も当然増えています。そのように環境付加価値のある商品を積極的に選ぼうとする消費者のことを、グリーンコンシューマーといいます。
電力も商品の1つですから、当然そこには価値があります。そして太陽光発電システムや風力発電など、環境を汚さない発電方式でつくられた電気には、純粋な動力源としての電力の価値以外に「環境に配慮している」、「クリーンである」という環境的な価値があると考えられます。
現在、そういう環境価値を付加した電力のことを「グリーン電力」と呼び、通常の火力や原子力でつくられた電力と区別しています。
「グリーン電力証書」とはとはいうものの、「電力」という商品の性格上、ある人が「環境に配慮された電気を使いたい」と考えたとしても、スーパーで無農薬野菜を選ぶように自由に選ぶことはできません。電力会社から通常買う電力は、そのままでは環境価値のない電力です。そうなると、自分で自然エネルギー発電設備を設置する必要が出てきますが、それもまた大変なことです。
そこでもっと手軽に、環境に良い電力を使うことができないか、という要望から、「グリーン電力証書」という仕組みが考え出されました。
つまり自然エネルギーでつくられた電気のうち、純粋な動力としてのエネルギー部分と環境価値の部分とを分け、環境価値部分を証券化して流通させるのです。環境に配慮された電気を使いたい人は、この証書を購入することで、環境に配慮された電気を使っていると「見なす」ルールにしたのです。
このルールによりグリーン電力の発電事業者は自ら発電した電力のうちの環境価値部分を売って収益とし、それは発電設備の維持や拡大にも貢献します。一方、環境に良い電力を使いたい人は、発電設備を持つために大きな投資をすることなく、それが可能になるのです。
しかし、目に見えない電気のうちのさらに「環境価値」をやり取りするとなると、その価値を客観的に評価認定することが絶対必要です。そこでその役割を果たす公的機関として、日本エネルギー経済研究所にグリーンエネルギー認証センターという組織が作られました。
グリーンエネルギー認証センターの役割には、まず発電設備認定ということがあります。グリーン電力証書を発行するためには、グリーンエネルギー認証センターから「CO2を排出しない」もしくは「著しくCO2排出が少ない」発電設備であることの認証をもらう必要があります。そのような設備に認定されているのは次の6つの発電方式です。
(1)風力発電
(2)太陽光発電
(3)バイオマス発電
(4)水力発電
(5)地熱発電
(6)化石燃料・バイオマス混焼発電
設備の認証をもらい、さらにその設備で実際に発電した電力であることを認証してもらい、初めて証書を発行できます。
小規模な環境価値を束ねる試み太陽光発電システムで発電した電力には環境価値がありますが、風力発電やバイオマス発電と違い、設備そのものが小規模で所有者の数も多く分散しているので活用しにくいという問題点があります。さらに通常は発電したうちの6割程度が電力会社に売電され、約4割が自家消費となるのですが、電力会社に売電した部分は「環境価値」も一緒に電力会社に移ってしまいます。買い取った電力の環境価値部分は、各電力会社によってRPS法に定められた自社の「新エネルギー義務量」としてカウントされるからです。
したがって、個人として活用できる「環境価値」は、残りの自家消費電力部分の価値のみとなります。
このわずかな各家庭の「環境価値」部分を束ねて大きなまとまりとし、流通させようという試みが、あるNPO団体によって行われています。太陽光発電を設置した人のネットワーク組織である太陽光発電所ネットワーク(略してPV-Net)が事業化する、「PV-Green」という事業です。これは、個人の自家発電における環境価値をグリーン電力証書化する試みです。
グリーン電力証書のつくられかた個人での太陽光発電の環境価値をグリーン電力証書化する手続きは、どのようなものなのでしょうか。それを知るために静岡県富士市に住む山下正道さんという方を取材しました。山下さんのお宅では2000年にサンヨー製の太陽光発電システム3.8kWを設置し、2年前からグリーン電力証書の販売に挑戦しています。ではその山下さんの例で、手続きの流れを紹介しましょう。
まずはPV-Netを通して、グリーンエネルギー認証センターに、自分の家の太陽光発電が自然エネルギーを生み出す設備であるという認証を受けます。認証されれば、次に太陽光発電所ネットワークへ発電記録の提出を行います。これは自宅のパワーコンディショナーに付いている累計メーター(または表示モニター)の写真を撮り、その写真に売電検針票のコピーを同封して送ります。
1年後、同じ月にもう1度パワーコンディショナーの累計メーター(または表示モニター)の写真を撮り、同月の売電検針票のコピーを送ります。「作業としては1年に1回だけ」(山下さん)です(※ただし、2009年11月からは、認証に計量法対応測定器の設置が必要となります。以前から指摘されていましたが、一般家庭に取り付けられているパワコンの電力量表示は、計量法に基づいた軽量器ではないため誤差が生じる場合があるからです)。
パワーコンディショナーに表示された今年の発電量の累計数字から、前年分を差し引くことによって1年分の発電量が分かります。次に同じように売電検針票の累計の差を出すと1年分の売電量が分かります。
つまり、(1年分の発電量)−(1年分の売電量)で(1年分の自家消費電力量)が計算されるのです。この自家消費電力分に付加する環境価値が、グリーン電力証書化できることになります。PV-Netでは、山下さんのような会員が全国に約2000名おり、会員が希望すれば、会員からのグリーン電力を買い上げています。それをまとめて環境に貢献したい企業や団体などに販売しているのです(ただし換金されるのは証書が売れた時点)。
ちなみに山下さんのお宅では、1年分のグリーン電力証書化は、約1万円分になったそうです。自家消費が多い家庭では、数万円になることもあるようです。
ある地方金融機関の活用事例さて、こうして集められたグリーン電力証書はどのような形で活用されているのでしょうか。その先が見えにくいのですが、最近は意外に身近なところで活用されています。
グリーン電力証書の身近な活用事例として、地方の金融機関の優れた取り組みがあります。静岡県静岡市に本店を構える静清信用金庫では、2006年度から「せいしんSTOP地球温暖化!キャンペーン」を開始。その一環として、「GREEN・アース」と銘打った定期預金を開発しました。その預金の一部(0.01%)を、利用者の賛同のうえで静岡県地球温暖化防止活動推進センターに寄付という形で提供したのです。
同センターでは、その資金をもとにPV-Netより「グリーン電力証書」を購入。県内で様々な団体によって行われる環境イベントなどの取り組みにおいて、そこで使われる電気に対し、「グリーン電力証書」をプレゼントという形で提供しました。消費電力をグリーン電力でまかない、さらに温暖化防止の啓蒙活動に役立てようという試みです。
静清信用金庫における「グリーン電力証書」活用事例のしくみ図
このような取り組みが評価され、信金業界で初めての「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」(環境教育・普及啓発部門)受賞につながりました。
静清信用金庫の営業推進部副部長久保田篤さんによれば、「地域の方に支えられて共に繁栄する地域金融機関として最も重要な取り組みと考えており、今後も継続していく」とのことです。また、静清信用金庫と二人三脚でキャンペーンに取り組み、PV-Netと静清信用金庫の橋渡しの役を担った、静岡県地球温暖化防止活動推進センターの松尾和光さんは「太陽光発電から生み出されるグリーン電力証書には、風力やバイオマスなどのグリーン電力証書とは違う、“小規模分散型”という意義がある。ある特定の地域でつくられたグリーン電力を購入可能なため、特定の地域の環境振興に貢献したい企業のニーズに応えられる」と語っています。
今後の課題と可能性太陽光発電システム1カ所からつくられるグリーン電力証書は、わずかなものでしかありません。しかし、小さなせせらぎが集まって大河になるように、小さな発電所を束ねた時大きな力になります。
太陽光発電のグリーン電力証書の取り組みはまだ始まったばかりです。会員数もまだまだ十分とはいえません。また、先に述べたように今後は計量法にのっとった正規のメーターを付けなければならないなど、コストの問題も抱えています。
そのような様々な課題はありますが、今後爆発的な増加が予想される住宅用太陽光発電が生み出す環境価値を、ただ捨て置くのはもったいないことです。環境価値を使って少しでもメリットを得たい太陽光発電ユーザーと、これを活用したい企業・組織とを結び付け、活用していく知恵が、さらにグリーンな社会づくりを促進することにつながっていくはずです。そういう意味で、グリーン電力証書には大きな可能性が眠っているといえるでしょう。